2 前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。
緊急避難は、正当防衛と同じように、危難に瀕する権利を救うためにする行為が許される場合の一つです。
ただこの場合、危難の原因となっている侵害は不正なものに限らず、他人の違法でない行為や人の行為でない自然現象などによって「現在の危難」が生じ、その危難を避けるための避難行為が、第三者の権利を侵害したときが対象となります。
したがって、緊急避難においては、その避難行為によって被害を被る人は、なんらそれを甘んじて受ける特別な理由はなく、ただ、国家がそのような危急状態を救う余裕がないときに私人自らこれを守ることを認めるに過ぎないのであるから、それだけ緊急避難の許される場合は、正当防衛の場合に比べて要件が厳格となっています。
- 自己又は他人の生命、身体、自由若しくは財産に対する現在の危難があることが必要です。「現在の危難」とは、危険が切迫していることをいいます。
- その危難を避けるためにした行為であることが必要です。
- 他に避難の方法があれば、その方法をとる必要があります。これを緊急避難の補充性といいます。
- 避難行為から生じた害が避けようとした害の程度を超えないことが必要です。これを「法益の権衡」といいます。この程度を超えた場合も 過剰避難となります。
- 緊急避難の要件に当てはまる場合でも、業務の性質上、危難に立ち向かうべき義務のある者は、一般人と同じように緊急避難行為をすることは許されません。
そうでない場合は、「過剰避難」として過剰防衛と同様に刑罰の対象となり、情状によって刑を減軽又は免除されることがあるに過ぎません。
また、他人の需要に応じて、人の生命、身体、財産等を守る職務上の義務を有する警備員は、たとえ、自己の生命、身体等を守るためであっても、第三者の権利を侵害してはならないと考えられます。
しかし、その本旨は、みだりに義務遂行を怠ることを許さないことにあります。したがって、他人の危難を救うための緊急避難行為は、一般人と同様に許されるし、自己の危難を避けるためでも、義務の性質、内容等を考慮し、あるいは社会通念上、危難の内容、程度がその義務を超えていると認められる場合には、適用を認められる場合があります。
緊急避難の有名な事例
緊急避難というのはなかなかイメージが湧きにくい方もいるかと思いますので、ひとつ有名な事例を参考に紹介しておきます。
Wikipediカルネアデスの板より引用
舞台は紀元前2世紀のギリシア。一隻の船が難破し、乗組員は全員海に投げ出された。
一人の男が命からがら、壊れた船の板切れにすがりついた。するとそこへもう一人、同じ板につかまろうとする者が現れた。しかし、二人がつかまれば板そのものが沈んでしまうと考えた男は、後から来た者を突き飛ばして水死させてしまった。
その後、救助された男は殺人の罪で裁判にかけられたが、罪に問われなかった。
緊急避難の例として、現代でもしばしば引用される寓話である。現代の日本の法律では、刑法第37条の「緊急避難」に該当すれば、この男は罪に問われないが、その行為によって守られた法益と侵害された法益のバランスによっては、過剰避難と捉えられる場合もある。
コメント