非正規雇用のボーナス・退職金に関する最高裁判決をどう読むか(同一労働同一賃金)

非正規雇用のボーナス・退職金に関する最高裁判決をどう読むか

10月13日に1.大阪医科薬科大学事件、2.メトロコマース事件という2つの大きな最高裁判決が出され,それに関する解説記事がYahoo!ニュースに掲載されていたのでご紹介したいと思います。

 

非正規従業員に賞与や退職金を支払わないことの是非が争われた2件の訴訟で最高裁は13日、不支給を「不合理とまで評価できない」との判断を示した。訴訟で支払いを求めてきた非正規社員らは同日、東京都内で記者会見し「時代の流れに大きく反する判決だ」と憤りの声を上げた。

 

日経新聞より引用

そもそも何が問題なのか?

 同一労働同一賃金とは、国が進める正社員・非正規雇用(契約社員・アルバイト・派遣)の待遇差を是正しようとする政策ですが、「同じ仕事をしていれば同じ賃金」という単純な話ではなく、原則として、日本での同一労働同一賃金は1業務内容、2責任、3配置変更範囲、4その他の事情という4つの要素を考慮して「不合理」か否かで判断されるという、少し複雑な制度になっています(パート・有期法8条)。

 

 この4つの要素は、後に出てくる最高裁判決の最重要ポイントとなっていますので覚えておいて下さい。

 

 さて、1.大阪医科薬科大学事件については、アルバイトの大学教室事務職員に対して正社員と同様に賞与(ボーナス)が支給されるか、2.メトロコマース事件については、駅売店販売員の契約社員について正社員と同様に退職金が支給されるか、がそれぞれ問題となっていました。

 

今後、企業対応はどうすべきか

 以下では、上記最高裁判決内容を踏まえて、企業としてはどのように対応していくべきかの大まかな考え方について述べておきます。

 

1 実質的に正社員と同じと言われないように注意

 冒頭述べた通り、本判決は賞与や退職金について、いかなる場合も非正規雇用者には払わなくて良いと述べたものではなく、一定の限界があります。

 

そこでまず注意すべきは、前掲、メトロコマース事件の補足意見で見たように「有期契約労働者がある程度長期間雇用されることを想定して採用されており,有期契約労働者と比較の対象とされた無期契約労働者との職務の内容等が実質的に異ならないような場合」に該当しないようにすることです。

 

 そのためには、

 

1.どの程度の期間雇用とするのか予め見通しを付け、例えば5年経過し無期転換後は別の雇用形態であるという整理をする(実務的には3年で区切るという考え方もあろう)

 

2.正社員と非正規の職務内容、配置変更範囲について具体的な差異を検討しておく

 

ことが重要となります。

 

2 4要素に沿った実務対応と説明を

 具体的な差異とは、1業務内容、2責任、3配置変更範囲、4その他の事情という4つの要素から判定を行います。各要素で実務的に検討すべきは概ね以下のとおりです。

 

【4つの要素における検討事項】

 

1 業務内容の差異

 

・業務内容や役割における差異の有無及び程度

 

・業務量(残業時間)や休日労働、深夜労働の有意な差

 

・臨時対応業務などの差

 

2 責任の範囲の差異 

 

・業務に伴う責任や差異の有無及び程度

 

(単独で決裁できる金額の範囲、管理する部下の人数、決裁権限の範囲、職場において

 

求められる役割、トラブル発生時や臨時・緊急時に求められる対応、売上目標、成果への期待度業績や成果に対する責任の有無・程度、責任の差異が人事考課に反映されているか、数字を伴う「結果」について責任を負う立場か、上司の指示を守るなどの「行動」責任を負う立場かなど)

 

・人事考課の差異

 

3 配置変更範囲の差異 

 

・配転(業務や職種変更、転勤)、出向、昇格、降格、人材登用等における差異(実態重視)

 

4 その他の事情 

 

 正社員登用制度の有無・実績、労働組合やその他労使間での交渉状況、従業員への説明状況、労使慣行、経営状況、正社員登用等の処遇向上に通じる措置の実施状況や実績、非正規労働者が定年後再雇用された者であるか等

 

 これら4要素による検討は、条文に従った対応ですので、判決前から重要視されていましたが、本判決により、具体的に正規非正規の差異を検討し、説明できるようにしておく重要性は高まったと言えます。そのため、各企業としてはこれら4要素に従った差異の検討を行うことが改めて重要であると言えるでしょう。

 

3 労働組合との対話

 労働組合との交渉状況は、上記4要素4「その他の事情」として検討されるものですが、そもそも労働条件は労使自治で決定するのが原則であり、前記補足意見でも「労使交渉等を踏まえて,賃金体系全体を見据えた制度設計がされるのが通例」とされているとおり、労使交渉は単なる一要素ではなく、まず不合理性判断の枠組みを超えた根源的な重要性を持つものです。

 

 そのため、企業としては、本判決を踏まえ、改めて4要素により正規非正規の差異について検討を行い、その結果を企業内労組に提示して労使交渉を行い、自由に意見を戦わせる中で、より良い制度へと自ら変革していくことこそが労使自治であり、この点が何よりも重要であると考えます。

 

Yahoo!ニュースより引用

 

上記のように同一労働同一賃金に関連した裁判のニュースを見かけるようになりました。

 

警備業界ももちろん例外ではなく、今後こういった事案が出てくるかもしれません。

 

決して労働に関する待遇がいいとは言えない業界です。しかしこういったトラブルを回避するためには、社内規則や待遇等を明確にしておかなければいけないといえるでしょう。

 

関連リンク

同一労働同一賃金と警備業

 









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