警備業法等の解釈運用基準 第19 警備業者等の責務(法第21条関係)
1 総説
(1) 法第21条第1項において、警備業者及び警備員に対して警備業務に関する知識及び能力を向上させる努力義務を課したのは、警備業務が人の生命、身体、財産等を守ることを主な内容とする業務であり、警備員は、警備業務の実施に伴って発生する様々な事象に対し、適法、妥当かつ臨機応変に対応することを要求されるが、このような対応を瞬時の判断により的確に行うことができるためには、一般人の常識の範囲を超えた専門的な知識及び技能が必要とされることから、警備業務が適正に実施されるためには、これに直接従事する警備員が不断の努力を重ね、警備業務に関する専門的な知識及び技能を錬磨し、厳正な規律に従って業務を行う必要があるからである。
(2) 法第21条第2項においては、警備業者にその警備員に対する教育等を法律で義務付けることにより、警備業務の適正な実施の確保を図ることとしている。これは、警備業務の性格上、同条第1項の規定と相まって、これに直接従事する警備員に一定水準以上の専門的な知識及び技能を有させ、警備業者の特別な注意義務に基づく指導及び監督の下に業務を行うようにさせる必要があると考えられたからである。
これに伴い、警備業務は、労働者供給事業的形態で行われることはもとより、労働者派遣事業的形態で行われることも禁じられている(職業安定法(昭和22年法律第141号)第44条、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)第4条第1項第3号)。警備業者は、自己が使用して警備業務に従事させる警備員に対しては、自らの責任において教育等を行わなければならず、当該警備員に対して他の警備業者が既に教育等を行っていたとしても、そのことをもって教育等の義務を免れることにはならない。
2 府令の定め
(1) 府令第38条第1項中「必要に応じて行う警備業務に関する知識及び技能の向上のための教育」とは、基本教育及び業務別教育以外に行うものをいう。
(2) 府令第38条第2項の表の教育事項中「警備員の資質の向上に関すること」とは、警備業の現状と社会的役割に関すること、警備員の使命と心構えに関すること等をいう。
(3) 府令第38条第2項の表の教育事項中「その他警備業務の適正な実施に必要な法令」とは、日本国憲法(基本的人権)、刑法(明治40年法律第45号。正当防衛、緊急避難等)、刑事訴訟法(昭和23年法律第131号。現行犯人の逮捕及び引渡し等)、遺失物法(平成18年法律第73号)等をいう。
(4) 府令第38条第2項の表の教育事項中「応急の措置」とは、警察機関への連絡のほか、負傷者に対する応急手当、避難誘導等をいう。
(5) 府令第38条第2項の表の教育事項中「護身の方法」とは、「護身用具の使用方法」のほか、護身術をいう。
(6) 業務別教育は、当該警備員が従事しようとし、又は現に従事している警備業務の具体的な内容に即し、かつ、当該警備員の知識、技能の程度に応じて行うように指導すること。
(7) 府令第38条第2項及び第3項の表の備考中「当該教育についてこれ(指導教育責任者)と同等の知識経験がある者として国家公安委員会が定める者」は、規程第1条及び第2条において定められている。
(8) 府令第38条第2項及び第3項の表の備考中の「講義の方法」は、具体的には次の方法によるものとする。
@ 規程に定める警備員教育を行う者(以下「教育を行う者」という。)が、教本、視聴覚教材等必要な教材を用いて、受講者と対面して行うもの
A 教育を行う者が、電気通信回線を使用して受講者と非対面で行うもの
Aの方法については、例えば、パソコン等でインターネットを利用した学習やテレビ会議システムを利用した遠隔講義等があるところ、いずれの場合であっても、@の方法と同等の教育効果を得られるものであるべく、電気通信回線を使用して行うものであって、府令第38条第2項の表の備考第3号イからニまでの各要件を満たすものである必要がある。
(9) (8)Aの方法による教育を行う場合における教材の制作者に限定はなく、府令第38条第2項及び第3項に定める教育事項並びに同条第2項の表の備考第3号イからニまでの各要件を満たすものであれば、その視聴時間を教育時間数に算入できる(設問の回答に必要な時間を含む。)。ただし、当該教材については、初回視聴時、スキップできないものである必要がある。
(10)府令第38条第2項の表の備考第3号イの要件を満たすためには、受講開始前に、ID・パスワード、生体認証等を用いた本人確認を行う必要がある。
(11) 府令第38条第2項の表の備考第3号ロの要件を満たすためには、以下の方法等により受講者の受講の状況を確認する必要がある。
ア 警備業者が使用し、又は管理する施設において実施する場合
教育を行う者が、講習中に最低1回、受講者の受講状況を目視、点呼、身分証明書の提示等により確認する方法
イ 警備業者が使用し、又は管理する施設以外において実施する場合
@ 受講中のあるタイミングで、PC等インターネット端末の内蔵カメラ等を利用して受講者の顔画像を撮影し、営業所等に送信させる方法
A 受講中のあるタイミングで端末上に表示される指示等に従い、携帯電話等を用いて受講状況を撮影させ、受講終了後にEメール等で営業所等に送信させる方法
(12) 府令第38条第2項の表の備考第3号ハの要件を満たすためには、教材中に講義内容に関する設問を設け、受講者に当該設問に対する回答を求めることや、教材視聴後に効果測定を行い、履修状況を確認すること等が必要である。
(13) 府令第38条第2項の表の備考第3号ニの要件を満たすためには、電子メール等により、受講者が教育を行う者に対し質問できる仕組み・環境を構築すること等が必要である。
(14) (8)Aの方法により講義を行う場合であっても、教育を行う者は、当該講義を主体的に行う必要があり、例えば、府令第38条第2項の表の備考第3号に掲げる要件を満たすために、受講者の本人確認を行うなどの必要がある。
(15) 府令第38条第4項において、警備業者は、一定の要件を満たす警備員に対しては、新任教育義務の全部又は一部を免除されており、特に、@合格証明書の交付を受けている警備員で当該合格証明書に係る種別の警備業務に従事させようとするもの、A指導教育責任者資格者証の交付を受けている警備員で当該指導教育責任者資格者証に係る警備業務の区分の警備業務に従事させようとするもの並びにB合格証明書又は指導教育責任者資格者証(法第2条第1項第1号の警備業務にかかるものを除く。)及び機械警備業務管理者資格者証の交付を受けている警備員で機械警備業務に従事させようとするものに対しては、新任教育を行わなくてよいこととされているので留意すること。
(16) 府令第38条第5項において、警備業者は、一定の要件を満たす警備員に対しては、現任教育義務の全部又は一部を免除されており、特に、@1級合格証明書の交付を受けている警備員で当該合格証明書に係る種別の警備業務に従事させているもの及びA指導教育責任者資格者証の交付を受けている警備員で当該指導教育責任者資格者証に係る警備業務の区分の警備業務に従事させているものに対しては、現任教育を行わなくてよいこととされているので留意すること。
3 部外実施教育の取扱い
警備業者は、その責任において警備員教育を実施しなければならないが、その全てを自ら又はその従業者により行うことまでは要せず、その責任において実施するものであり、法及び府令に定めるところに反しない範囲で、その者又はその従業者以外の者がその警備員に対して行う教育を警備員教育の一部と認め、教育時間数に算入することができる。
(1) 警備員教育の教育時間数への算入が認められる教育の方法
警備業者又はその従業者以外の者がその警備員に対して行う教育(以下「部外実施教育」という。)のうち、警備員教育の教育時間数への算入が認められるものは、講義の方法又は実技訓練の方法で実施される基本教育及び業務別教育とし、実地教育の方法により行う業務別教育については、警備業務の実施の現場においてマン・ツー・マン方式で行われる当該教育の方法の特性に鑑み、警備業者又はその従業者以外の者が実施することは適当でないため、警備員教育の教育時間数へ算入する対象から除外することとする。
(2) 警備員教育の教育時間数への算入が認められる教育を行う警備業者又はその従業者以外の者の範囲
警備業務について高度な専門的知識及び技能を有する部外の講師等を招へいし、警備業者が使用し、又は管理する施設において実施する部外実施教育については、その教育事項等が府令第38条の定めるところに適合し、かつ、警備業者が、その指導教育責任者が作成する教育計画書に記載する教育計画に基づき、警備員の知識及び能力の水準に照らし適切かつ効果的に実施するものであれば、警備員教育の教育時間数への算入を認めるものとする。
一方、警備業者が使用し、又は管理する施設以外で実施する部外実施教育の警備員教育の教育時間数への算入については、次に掲げる者による部外実施教育であって、その教育事項等が府令第38条の定めるところに適合し、かつ、当該警備業者が、その指導教育責任者が作成する教育計画書に記載する教育計画に基づき、警備員の知識及び能力の水準に照らし適切かつ効果的に実施するものである場合に限定して認めるものとする。
@ 警備業務の適正な運用を確保し、公共の安全と秩序の維持に寄与することを目的として設立された一般社団法人又は一般財団法人で警備員及び警備業関係者に対する教育訓練に係る事業を行うもの
A 中小企業等協同組合法(昭和24年法律第181号)第3条第1号及び第1号の2に掲げる事業協同組合又は事業協同小組合で、組合員の事業に関する知識の普及を図るための教育(中小企業等協同組合法第9条の2第1項第4号)をその事業とし、組合員である警備業者の警備員に対する警備員教育を行うもの
B 法第23条第3項の登録を受けた者(以下「登録講習機関」という。)
C 複数の警備業者がその警備員教育を共同して実施することを約することにより成立した民法上の組合その他の団体
4 警備会社の合併、分割等があった場合における取扱い
警備会社の合併、分割等があった場合において、従前から警備業務に従事していた警備員を新たに使用することとなる警備業者が、改めて新任教育を行う必要があるか否かについては、原則として新任教育を要するが、当該警備員に教育を行っていた警備業者の事業の実態と当該警備員を新たに使用することとなる警備業者の事業の実態とに同一性が認められるときに限っては、改めて新任教育を行う必要はないものとする。
5 指導及び監督
法第21条第2項中「指導及び監督」とは、警備業者がその警備員を自己の責任において業務上及び身分上の指導及び監督を行うことをいい、警備業者がその被用者をして警備員を指導及び監督させる場合を含む。
指導及び監督の具体的な基準については、警備業者の自らの警備実施要領や依頼者との警備契約の内容によることはもとより、府令第38条第2項及び第3項その他の関係法令に従い、警備業の検定における業務内容、業界で共有される警備実施要領に沿う必要があるが、個別の警備業務における具体的な基準については、個別具体的に考えていくべき性質のものであり、警備対象施設の状況、警備業務の内容、警備員の性質・年齢・勤務状態、地理的・気象的・期間(時間)的条件を総合的に勘案した上、社会通念上相当と認められる指導及び監督を行う必要がある。
6 複数の警備業者が共同で警備業務を実施する場合の留意事項
警備員に対する指導及び監督は、警備業務の実施の適正を図るために不可欠なものであるので、警備業者及び指導教育責任者に対し、十分に指導を行うこと。また、指導及び監督が行われない場合には、職業安定法第44条違反になることもあるので、その点についても十分配意すること。
特に、警備業者が委託を受けた警備業務の全部又は一部を他の警備業者に委託する場合には、その態様によっては、委託を受けた警備業者がその警備員に対して行う指導及び監督に関し、法第21条第2項に違反する形態や労働者供給又は労働者派遣に関する規制を潜脱する形態で警備業務が行われるおそれがあることから、その委託に係る警備業務が適正に行われているか否かについて、警備業者に対する指導を適確に行うこと。
また、複数の警備業者が共同して警備業務の委託を受けた上、一の警備業務対象施設等(警備業務対象施設その他の警備業務が実施される場所をいう。)において警備業務を共同して実施する場合には、各警備業者間は、一般的に共同企業体(ジョイント・ベンチャー(JV))と称される一種の民法上の組合(以下「共同企業体」という。)を構成しているものと解されるが、この場合において、共同企業体の構成員間の任務分担及び責任関係が明確に定められていない時には、法第21条第2項の規定による指導及び監督が適正に行われないなど、警備業務の実施の適正を害するおそれがある。このため、共同企業体による警備業務の共同実施に当たっては、各警備業者が各々その者の雇用する警備員に対する指導及び監督を行うことはもとより、一の警備業務対象施設等における警備業務の実施の適正を確保し、警備業務の依頼者の保護を図るため、警備業務を共同実施する構成員間の業務分担と連絡調整が適正に行われるよう、警備業者に対する指導を適確に行うこと。
なお、警備業務の委託又は警備業務の共同実施が行われる場合には、警備業者の営業所の所在地を管轄する公安委員会と当該警備業務が行われる区域を管轄する公安委員会が異なり得ることから、これらの場合には、警備業者に対する指導及び監督を円滑に進めるため、関係する公安委員会は、密接に連携して、委託又は共同実施に係る警備業務が適正に実施されているか否かについて、効果的に確認を行うこと。
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