刑法第36条 (正当防衛)
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
例えば、強盗犯人が刃物を持って、契約先や警備員自身に襲いかかってきた場合、警備員は、素手であるいは護身用具を用いてこれに立ち向かいこれを撃退することができます。
この場合、警備員は形のうえでは犯人に対して実力を行使することになるわけでですが、暴行罪、傷害罪等 に問われることはありません。
なぜなら、契約先や警備員は犯人による権利の 侵害を甘受するいわれはないですし、また、犯人が警備員の実力行使によって害を受けたとしても、それはもともと犯人自身の不法な行為によって引き起こされたものだからです。
このように、急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ない場合には、実力をもってかかる侵害を排除することができることを規定したのが本条でです。この実力行使を「正当防衛」 といいます。
(ア)「急迫」とは、権利を侵害される危険が差し迫っていることをいいます。 単に、将来侵害されるおそれがあるだけの場合や、既に侵害が終ってしまった場合には、正当防衛は認められません。
(イ) 「不正」とは、「違法」というのと同意である。したがって、正当防衛行為に対して正当防衛を行うことはできません。
(ウ) 正当防衛行為は、「自己又は他人の権利を防衛するため」のものであることを要する。すなわち、防衛意思と防衛手段としての相当性を必要とします。
(エ) 正当防衛行為は、権利を防衛するため「やむを得ずにした行為」である必要があります。
すなわち、防衛手段として社会通念上、相当と認められることを要します。例えば、万引きをした者に対して警戒棒で打撃を加える等の行為は、相当な手段の範囲を逸脱したものであり、正当防衛にはなりません。
このように、正当防衛として相当な程度を超えた 実力行使は、「過剰防衛」として罰せられ、情状によりその刑が減軽又は免除されるに過ぎないのです。(本条第2項)。
正当防衛に関する事例
Wikipedia勘違い騎士事件のページから引用
事案
1981年7月5日午後10時20分頃、空手3段の腕前である英国人の被告人は、夜間帰宅途中の路上で、酩酊した女性とそれをなだめていた男性とがもみ合ううち、女性が倉庫の鉄製シャッターにぶつかって尻餅をついたのを目撃した。
その際、同女が「ヘルプミー、ヘルプミー」などと(冗談で)叫んだため、被告人は女性が男性に暴行を受けているものと誤解して、両者の間に割って入った。被告人はその上で、女性を助け起こそうとし、ついで男性のほうに振り向き両手を差し出した。
男性はこれを見て、被告人が自分に襲い掛かってくるものと誤解し、防御するために自分の手を握って胸の前あたりに上げた。
これを見た被告人は、男性がボクシングのファイティングポーズをとり、自分に襲い掛かってくるものと誤解し、自己および女性の身体を防衛しようと考え、男性の顔面付近を狙って空手技である回し蹴りをし、実際に男性の右顔面付近に命中させた。
それにより、男性は転倒して頭蓋骨骨折などの重傷を負い、その障害に起因する脳硬膜外出血および脳挫滅によって、8日後に死亡した。
判決・決定
第1審・・・被告人を無罪とした。
第2審・・・被告人を有罪(懲役1年6ヶ月、執行猶予3年)とした。
最高裁・・・最高裁判所昭和62年3月26日決定は、「本件回し蹴り行為は、被告人が誤信したA(男性)による急迫不正の侵害に対する防衛手段として相当性を逸脱していることが明らかである」として、傷害致死罪の成立を認めた上で、刑法36条2項による減刑を認めた原審の判断を、最決昭和41年7月7日を引用して支持した。
この事件では、正当防衛としては過剰であったとするものの、情状酌量を認められたようです。
現実の事案としては正当防衛として見られるか状況によって様々なようで、総合的に判断されるようです。
関連ページ
- 警備業法第2条(定義)
- 警備業法第3条(警備業の要件)
- 警備業法第4条(認定)
- 警備業法第14条(警備員の制限)
- 警備業法第15条(警備業務実施の基本原則)
- 警備業法第16条(服装)
- 警備業法第17条(護身用具)
- 警備業法第18条(特定の種別の警備業務の実施)
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